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大阪地方裁判所 昭和58年(モ)20676号 決定 1983年9月16日

申請人

松本敬

右申請人代理人

植田勝博

被申請人

ダイヤモンドクレジット株式会社

右代表者

川上毅

主文

一、本件申請を却下する。

二、申請費用は申請人の負担とする。

理由

一、本件申請の趣旨および理由は別紙のとおりである。

二、当裁判所の判断

破産の同時廃止の場合、破産財団たるべき財産がきわめて僅少で破産手続の費用を償うに足りないため破産宣告と同時に廃止の決定がなされ、破産管財人の選任等の手続は行なわれないから、破産管財人による債権者に対する平等弁済を旨とする一般的強制執行手続はなく、破産債権の回収は各債権者の個別執行に委ねられたものと解されるので、各債権者が個別に権利を行使することは何ら差支えないものといわなければならない。

また破産手続と免責手続は別個の手続であり、両手続を一体のものとして免責手続の終了まで債権者の個別執行が許されないと解すべき根拠はない。

ところで、申請人の近畿配送サービス株式会社に対する破産宣告前の給料債権は差押可能な範囲で財団を構成すべきものであるが、申請人は右の給料債権を有しつつも財団不足による同時廃止の申立をしており、一件記録によれば、右の給料債権を含めても申請人の破産財団たるべき財産は破産手続費用を償うに足りないものと認められるから、申請人について破産管財人による一般的強制執行手続が行なわれる見込はなく、申請人の債権者である被申請人が破産財団に属すべき可能性のある給料債権に対し個別に権利を行使することは差支えないものといわなければならない。

また右給料債権のうち差押可能な部分はもともと債権者の引き当てとなつているものであるから、破産同時廃止決定をなすべき事情があるからといつてこれを申請人のために保留しておくべき理由はなく、申請人について免責がなされるか否か不明の段階において、免責されることを前提として被申立人の強制執行の停止を求める理由は存しない。

以上により申請人の本件申請は理由がないので主文のとおり決定する。

(前田博之)

申立の趣旨

被申立人から申立人に対して大阪法務局所属公証人大森敏夫作成昭和五七年第一三七二号の執行力ある公正証書に基づいてなした大阪地方裁判所昭和五八年(ル)第一二九三号債権差押命令は昭和五八年(フ)第六九〇号破産申立事件の裁判があるまでこれを停止する。

との裁判を求める。

申立の理由

一、申立人は昭和五八年七月一三日に御庁に対し破産申立をしたが、被申立人は昭和五八年六月二〇日に申立人に申立人の近畿配送サービス株式会社(第三債務者)に対する給与債権の差押をしている(疎甲第一号証)。

二、被申立人は右給与債権の差押により実質上優先的に配当を受けている状況にある。

三、債権者の差押の不当性

破産申立後の差押はすでに債務者の倒産状況が明らかであつて本来個別弁済はできず、全ての債権者の公平の考慮がなされる必要があるところから一定の制約を受ける(破産法第七〇条)。

もしこれを放置するとすれば、一債権者への偏ぱな弁済を認めることと同様となつて不当に利益を受け、これを許すべきでない。債権者もまた差押の執行停止の処分を受けたとしたところでこれを甘受すべきである。

四、同時廃止と執行停止の必要性

1 本来破産宣告があつて、破産終結決定または異時廃止で処理される場合、自然人の免責手続はその枠内で処理されるため、破産法第七〇条による強制執行は無効となり、また個別請求取立も一切できない。

右により免責決定を得たものは破産債権による責任を免れる。

2 しかるに同時廃止で終了するときは免責を審理すべき時間がないため、法第三六六条の二により別途免責申立をせざるを得ずそのように規定せざるを得なかつたものである。

仮に同時廃止の場合それ以降個別執行、個別請求を認めるとすれば未だ免責決定を取得しうる立場にある破産者は保護されないことになる。

しかし、通常破産廃止事件、異時廃止事件と同時廃止事件で破産者の保護に差異を設けるべき理由はない筈である(強いていえば裁判所へ金を出す人間を保護し、金を支払えない人間は保護しないということになろうか、しかし破産法がこの点で区別をすることは有り得ない)。

また右考え方を認めれば、債務者の新得財産まで破産債権により執行が可能ということになるが、それでは自然人の更生を認めた免責制度を没却することになる。

3 よつて同時廃止の破産者も破産債権者からの個別執行、個別取立を禁止した状況のなかで免責手続を受ける権利を有するというべきである。

免責手続は「破産者」の更生手続であり、それは会社更生法の会社更生と同じく倒産手続に含まれ、いわゆる「破産手続」に含まれているものである。

4 故に同時廃止の場合には、破産手続は免責決定の確定に至つて終了するものでその間は個別執行、個別取立は禁止されるというべきで、その間なされた個別執行は無効というべきである。

5 右の如く同時廃止によつて個別執行を受けないで免責手続を受ける権利を有する破産者としては破産宣告前の執行停止をなしうる利益と必要性を有する。

6 さらに、理論的に付言すれば破産申立より宣告までの間に破産申立人の財産が急増し、これが一般債権の配当財源にもなりうる可能性もあるわけで、一部債権者への弁済(強制執行による場合も含む)は許されない。

五、その他

1 同時廃止を受けた破産者が何らの差押もなく免責をうることは利得を得すぎることになるとの意見もあると考えられる。しかし、法は破産手続費用を賄うことができないような破産者についてはいづれにせよ債権者への配当は皆無であつて、特に債権者に不利になるわけではなく偶々裁判所への費用供出をせずにすむという何がしかの利益を反射的に債務者が取得することになるが、これはやむを得ないものであると同時にその程度は差支えないというのがその趣旨というべきであろう。

2 本件執行により債権者の蒙る不利益は金額もせいぜい金一〇万円にも満たず、破産者の受ける利益は微々たるものである。

六、以上により破産宣告前の保全処分を認めていただきたくここに上申致す次第であります。

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